みんなどうしてる?ストーマ造設術後の運動【サラ氏、山本氏、中島氏の特別座談会企画】
ストーマ保有者のためのエクササイズ「me+™リカバリー」の開発者であるサラ・ラッセル氏が来日され、山本悦秀氏と中島小百合氏の3名のストーマ保有者による座談会が開催されました。
テーマは、ストーマ造設術後の運動について。参加者の体験をもとに、エクササイズの取り入れ方や自身への影響を話され、ストーマ保有者の実情とストーマ保有者が受ける運動指導とのギャップについても議論されました。
- サラ・ラッセル氏:
ストーマ保有者でフィットネスインストラクター。ストーマ保有者のためのエクササイズ「me+リカバリー」の開発。イギリスから来日。@theostomystudio - 山本悦秀氏:
日本オストミー協会の副会長。62歳の時、進行大腸癌のためストーマを造設。マラソンが趣味。77歳の現在も週1で皇居ランニングを行っている。 - 中島小百合氏:
腸管子宮内膜症のためストーマを造設。もともとインドア派だが、me+リカバリーをきっかけに運動をはじめる。運動に目覚め、現在は週2ジムに通っている。アメリカ英語発音トレーナーとして活躍。@sayuri_onan
医師に止められたが、入院中から走りたくて仕方なかった
まずは、山本氏の手術時の経験談を伺いました。当時60歳を迎えた同氏は、韓国旅行中に身体に異常を感じました。帰国後すぐに診察を受けると進行性大腸癌の宣告を受け、母校の金沢大学病院で7時間に及ぶ大手術を行い、術後43日間という長い入院生活を経て退院となりました(通常は2週間ほど)。
マラソンが趣味であった同氏は入院中も、外を軽快にマラソンをするシーンを思い浮かべるばかり。とにかく外に出て思いっきり走りたい思いでしたが、当時、担当医師や看護師からは「動いてはダメ。運動もほどほどに。走るのはもってのほか」などの指導があり、入院中はモンモンとした日々を送っていたと振り返ります。
手術前は70kgあった体重も60kgほどに落ち込みました。身体の筋肉は衰えてしまい、術後に初めてジョギングしたときは自分の身体が二つに切れ分かれたような錯覚に陥りました。しかし、心は走れることに喜びを感じ手足は自然と前を向いていました。不満に感じたのは、当時の術後方針なのか、入院中に「できるだけ安静にしていなさい」といわれたことであったといいます。
ここでサラ氏は、母国イギリスでも20年前に入院中、医師からのアドバイスは、山本氏と同じく指導された言葉は「安全に身体を休めておくように」であったことを言及。また、サラ氏が訪れたカナダ、コロンビア等の国でも同じであったといいます。
山本氏は、その後、癌細胞が肝臓にも転移し手術をしました。術後は趣味であるランニングのスピードが大幅に低下し、最後のフルマラソンの記録も大きく落ちてしまったといいます。しかし、走ることは生きがいであることに変わりはありません。現在も毎週皇居周囲を2周(10km)走ることを楽しんでいます。41歳にマラソンを始め、現在(2023年3月22日取材日時点)までロードやイベント大会を含めてこれまでに1,013回を達成したとのこと。丁寧にノートに記録を残しながら、走ることを心から楽しんでいることがうかがえます。
もともとしていなかった運動。術後に始め、心と体のつながりを実感
もともとインドア派で日常的な運動をしていなかったという中島氏にもストーマ造設時の状況を伺いました。ストーマ造設術後はある程度身体を動かすよう指導されたものの、そもそも身体が受け付けず、したいとも考えませんでした。それだけストーマ造設術自体が身体に負担をかけていたのだと、振り返ります。12時間にも及ぶ大手術により、体力の低下が著しい状態でした。
入院中は山本氏と同じく病院側・担当医師や看護師から「激しい運動は控えるように」とやんわりと指示されていました。もともと運動をしてこなかったので、この指導には抵抗はなかったものの、体を動かさない日々が続くと精神も安定せずイライラすることも増えるようになりました。中島氏は前向きな気持ちで毎日を送るためには、適度なエクササイズで身体を動かして体力の回復を図る必要があると考えるようになりました。
やる気はあった中島氏ですが、ストーマを持ちながらどう運動をすればよいかわからず、退院後は、自宅の周辺を散歩がてらウォーキングすることから始めました。そんななか、コンバテックme+™クラブからの案内でサラ氏のme™+リカバリーを知り、取り入れ始めました。me+™リカバリーはストーマ保有者のために開発されたエクササイズなので、安心して運動をはじめることができたといいます。体を動かすことで精神的にもポジティブな気持ちになり、心と体のつながりを実感するようになった中島氏。その後、エクササイズをすることが楽しくなり、週2回トレーニングジムに通うようになり、自分の人生密度がアップしていくのを感じる毎日でした。
中島氏は現在通っているジムでトレーナーにストーマやオストメイトについて説明し、それに合ったプログラムをお願いしています。トレーナーはオストメイト専門ではないものの、毎回慎重にルーティンを組み立ててもらい、試行錯誤しながら楽しんでいます。サラ氏のエクササイズもジムのプログラムに組み込んでいるが、自身一人でやっていた時に比べ、トレーナーと一緒に正しく動けているか見てもらうことで新しい発見もあるとのこと。体との手探りのコミュニケーションを通して“身体の探検”をしていると話しています。
サラ氏によると、退院後体力が低下した3ヶ月間は、軽めのボディケアが必要とのこと。自分の体をコントロールすることは、精神的な安定につながると話します。山本氏もこの考えに強く同意し、自身の場合は走ることが心の支えになったと付け加えました。サラ氏が開発したme+™リカバリーのエクササイズは、単に傍ストーマヘルニアのリスク低減だけでなく、心と体のケアの両面でサポートされています。
ストーマ保有者の運動の実情と課題
日本全国でストーマ保有者は約22万人といわれるなか、日本オストミー協会登録メンバーは6,000名のみ。山本氏はそれほど自分にストーマがあることを公言する方が少ないと指摘します。
ストーマを語るうえで避けて通れない“排泄”の話はやはり恥ずかしいと感じる方が多いのも事実。さらに、ストーマ保有者に対する正しい認識が広がらないなか、時代錯誤の“人工肛門”という言葉のイメージも手伝って、世間での公言がはばかれていると考えられます。こういった状況から、他のストーマ保有者がどんな生活をしているかという情報を得て、自身の生活に取り入れたり、新しいことを始めるのが難しいといえます。
サラ氏から日本オストミー協会の中で、身体を動かすエクササイズの広がりを問われ、山本氏は協会メンバーの中で運動を取り入れている方はわずかしかいないと答えます。また、現在も“ストーマ保有者は運動してはいけない”といった雰囲気が公然と留まっているようだと中島氏は感じています。
サラ氏は、イギリスでは近年、ストーマ造設術後の運動を勧める医師は増えてきたが、課題は別のところにもあると指摘します。イギリスでの現在の指導は、運動推進派と運動禁止派の二極に別れており、いまだ禁止の指導法が多い状況です。さらに、近年増えてきた運動推進派にいたっても、具体的なアドバイスはあまりされないことがストーマ保有者が運動を始めるうえでハードルになっています。
これに対して、山本氏と中島氏は、日本でも同じよう課題があることに触れ、病院によっては理学療法士がストーマ保有者に適応した術後の運動指導に当たるケースもある一方、ストーマ保有者の一般的な相談先は医師や看護師であるというギャップもあると話します。
ストーマ保有者はどうやってエクササイズを取り入れるべき?
では、現状のストーマ保有者は、どのように運動を取り入れればよいのでしょうか? サラ氏は自身が開発したme+™リカバリーを取り入れるようにアドバイスします。
me+™リカバリーは、ストーマ保有者のために作られた新しいエクササイズで、適切に体を動かし、筋肉を維持することで、毎日のライフスタイルを提案する手助けとなります。
また、同プログラムは一人ひとりの体の状態やその日の体調に合わせて柔軟に調節できるプログラムです。1)入院中から始められるレベル(グリーンフェーズ)、2)自宅に戻ってからでも実施できるレベル(ブルーフェーズ)、そして、3)さらによりアクティブな体幹や筋肉強化を求めるレベル(パープルフェーズ)の3段階で構成されており、それぞれのレベルのエクササイズで期待できることは次の通りです。
- 通常の活動と仕事、ライフスタイルへの早期復帰
- 体幹筋肉の維持とその向上
- 動けることによる精神的な安定とサポート
今回の座談会では、ストーマ保有者の運動について、術後のストーマ保有者の生活に寄り添ったサポートや指導が行き届いていないという課題が挙げられました。そして、ストーマ保有者はなるべく運動しない方が良いという考えも多い事実に対して、ストーマ保有者も適切にエクササイズを取り入れる方法があり、体を適切に動かすことにより毎日が豊かになるという認識を広げていきたいという見解で座談会は締めくくられました。
コンバテックme+™クラブに無料会員登録していただくと、サラ氏が開発したme+™リカバリーの全てのエクササイズを動画でご覧いただけます。まずは、以下リンクより、me+™リカバリーのサンプル動画をお試しください。
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